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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)175号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を奈良地方裁判所に差し戻す。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文に同じ

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  当審において、控訴人が次のとおり主張したほか、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

二  控訴人

原判決は、控訴人は本件債権差押命令の債務者であるから、右命令に対する不服は執行抗告によるべきであり、第三者異議の訴えによることは許されないと判示したが、執行債務者が、担保権の実行として差し押さえられた自己の財産はその担保権に責任を負うものでないことを主張する場合には、実体法上の権利に基づいて右差押命令の取り消しを求めることが許されるべきである。

第三証拠(省略)

第四当裁判所の判断

一  原判決別紙物件目録記載の土地建物以下「本件物件」という。)に対して根抵当権(以下「本件抵当権」という。)を有する被控訴人は、右根抵当権の物上代位により、根抵当権設定者柿谷及び同人から本件物件を賃借し、これをさらに第三者(転借人)に賃貸している控訴人を債務者とし、右転借人を第三債務者として、控訴人の転借人に対する賃料(転貸料)債権の差押を求め、奈良地方裁判所は、右申立てに基づいて本件債権差押命令を発した(当事者間に争いがない。)。

二  控訴人は、本訴において、転貸料債権には被控訴人の本件抵当権の物上代位の効力が及ばないことを前提に、本件債権差押命令の執行力の排除を求めると主張する。

右前提とするところが理由があるとすると、本件抵当権に基づき本件転貸料債権を差し押さえることはできないから、執行債務者である控訴人は被控訴人に対し、本件債権差押命令の効力を否定して、執行抗告の申立てができることは原判示のとおりである。

しかしながら、執行債務者であっても、担保権の実行として執行を受けた自己の財産がその担保権に責任を負うものでないときは、第三者異議の訴えを提起することができるところ、控訴人主張の右前提が理由があるならば、控訴人は、その有する本件転貸料債権につき本件抵当権に基づく差押を受けるという侵害を受忍すべき理由はないし、被控訴人に対し、本件債権差押命令についてその執行力の排除を求める訴訟を提起できないとすべき理由はない。けだし、右の前提問題のような実体権の存否や内容を執行抗告により決定手続で審理・判断することはあくまで異例であるし、第三者異議の訴えが担保権実行手続にもそのまま準用されている(民事執行法一九四条)し、執行抗告の方法を取らなかった控訴人に対し、本件抵当権の物上代位が本件転貸料債権に及ぶか否かにつき既判力による確定を求めることを禁止する十分の根拠を見いだすことはできないからである。

三  右の次第で、本件訴えは不適法であるとした原判決は取り消しを免れない。

よって、民訴法三八八条に従い、原判決を取り消してこれを原審裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 熊谷絢子 裁判官 小野洋一)

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